「スト不参加時は同僚ではない」…サムスン労組「過度な圧迫」問題、内部不和拡大か

ここからは韓国経済の話題だ。

先週辺りから、こちらは韓国経済の最大のリスクとしてサムスン電子のストについて特集しているわけだが、このスト対立構造と韓国庶民が意外にもストに賛成しているというのがわりと興味深かった。

こちらは韓国ストが起きれば、経営者側の視点に立って状況を判断することが多い。だが、今回は珍しく比較対象が存在する。それはSKハイニックスである。韓国の庶民は当然、SKハイニックスの情報も知ってるわけで、サムスン電子とSKハイニックスの待遇の違いなどもニュースで出てきている。

しかも、SKハイニックスはサムスン電子よりも、よほど労働者にフレンドリーである。まずはそこをいくつかまとめておこうか。これによってサムスン電子のストを韓国人が賛同する理由がより鮮明となる。

それで、サムスン電子のストで一番大きな問題となっているのは成果給(ボーナス)の上限撤廃、成果給の比率である。今、サムスン電子のストは成果給を300兆ウォン利益見込みで、40兆ウォンだったか。これぐらい要求している。これは金額に惑わされているが、実は利益の10%程度に過ぎない。

ただ。SKハイニックスの成果給はサムスン電子の三倍でなんと45%である。これでわかるとおり、若手のエンジニアからすれば、サムスン電子よりもSKハイニックスの好待遇というわけだ。

だから、韓国掲示板では若手技術者の支持が強いというのが以前に解説したとおりだ。SKハイニックスで頑張って利益を出せば、会社はより大きなボーナスをちゃんとくれる。それが労働者フレンドリーの根源となっている。

まあ、既に知ってると思うのだが、この背景にあるのはSKハイニックスは半導体企業して万年赤字だった。SKハイニックスは買収すら断られて、サムスン電子なんかと比べものにならないほど脆弱だった。だからこそ、SKハイニックスの経営陣はSKハイニックスの労働組合を重視した。抜けられると困るからだ。

一方、サムスン電子は半導体だけではなくて、スマホや家電などで儲けていたこともあり、そのままサムスン電子が韓国のトップとして君臨し続けていた。経営陣は労働組合が存在することすら許さなかった。これを旧体質と韓国人が批判するのは当然だろう。

簡単にまとめるとサムスン電子は常に韓国のトップ企業として利益を上げており、それを投資に回して、さらなる利益を出すというスタンス。だから労働者の還元なんてほとんどしてこなかった。

一方、SKハイニックスは半導体を一本でやってきて、とにかく半導体の価値が低い頃には万年赤字で、労働者を囲い込むために経営陣は常に対話を求めてきた。

しかし、HBMの開発での成功が全てを逆転させた。サムスン電子はHBM開発で完全にSKハイニックスに周回遅れとされており、その技術差はほとんど埋まっていない。ええ?じゃあ、なんで韓国の半導体がここまで稼いでるの?それはHBMで稼いでるわけじゃない。

サムスン電子はDRAMは世界4割、NANDは世界の3割を製造している。ここで重要なのはAIバブルによってHBMの需要が爆増して、半導体企業がHBMばかりを重視するようになったら、今度はDRAMやNANDが圧倒的に不足した。サムスン電子やインテル、キオクシア、サンディスクなどの半導体メモリーが飛ぶように売れた。これが、2026年の4月の状況である。

結局、サムスン電子の300兆ウォンとか利益見込みだが、HBM中心で稼いでいるわけじゃないんだ。そこがサムスン電子が焦る理由にも繋がる。つまり、サムスン電子からすれば、稼いだ利益で半導体の投資を増やして、SKハイニックスにHBM技術で追いつきたい。ところが、サムスン電子のストで成果給を引き上げろと突きつけられた。

これが企業側として当然の考えだ。問題はSKハイニックスという比較対象が存在するので、労働者側からすればそれはおかしいになるわけだ。 SKハイニックスはもっともらっている。俺たちもよこせ。しかし、事情がわかっている労働者もわりといるので、サムスン電子のスト決起大会の参加者は40000人で、残り36000人は参加しなかった。

当然、労働組合からすればこの36000人は裏切りものだ。それが今回の記事である。

では、記事を引用しよう。

サムスン電子労組がスト参加を事実上強制する発言を出し労組の内部不和が浮上している。成果給拡大要求をめぐる労使対立が長期化する中で組合員間の対立に広がる様相だ。

サムスングループ超企業労働組合サムスン電子支部は27日、「4・23闘争決議大会」の立場文で「ストで同僚の献身を妨げるならばこれ以上同僚とみるのは難しい」と明らかにした。決議大会に参加しなかった約3万6000人を狙った発言だ。

労組は来月21日から18日間のストを予告している。組合員7万6000人全員の結集を強調し、不参加時の内部排除の可能性まで示唆した。

業界では「労組が内部に向けて攻撃対象を指し示しているのではないか」という指摘が出る。スト参加の有無をめぐり同僚関係まで取り上げるのは過度な圧迫ということだ。

23日の決議大会には約4万人が参加した。労組は1日の集会でファウンドリー(半導体委託生産)生産量が58%、メモリーは18%減少したと主張した。

ストが現実化する場合、世界的な顧客の信頼問題も議論される。メモリー半導体とファウンドリーのいずれも長期供給契約が拡大する状況で生産への支障はそのまま取引先離脱につながりかねないという懸念だ。

ソウル市立大学経済学部のソン・ホンジェ教授は最近のセミナーで「世界的ビッグテック顧客がリスク分散に向け台湾のTSMCなど代替供給先を検討するかもしれない。半導体工程は検証に莫大な時間と費用がかかり、一度離脱した顧客がまた戻ってくるのは容易でない」と話した。

ソン教授は「ストのコストは生産中断と売り上げ減少のような『見える損失』と、信頼低下、投資遅延、産業生態系への衝撃など『見えない損失』に区分できるが、後者がより長期的で致命的になるだろう」と強調した。

ニュースは以上。

今回の記事でポイントは一日だけで、ファウンドリー(半導体委託生産)生産量が58%、メモリーは18%減少という。つまり、ストは18日間だったか。単純に計算しても、一日の18倍の被害が出る。既に結果は見えてるよな。その損失が数兆円といわれる理由だ。

そして、上の記事に書いてあるとおり、生産の支障は取引先離脱に繋がりかねない。実質、繋がります。だって18日も生産量減少したら、企業からすれば絶対に足りなくなる。別のところから調達しないといけない。

だから、これはTSMCにも追い風となるわけだ。イラン戦争で中東に依存していた原油がピックアップされており、調達の多角化に各国は躍起だが、これもサムスン依存からの脱却という意味では同じ構図だ。

サムスン電子のストで生産量が減っても大丈夫なように企業がどこから半導体を調達。そのまま安定を優先した長期契約という流れ。記事で懸念してるわけだ。それで、さっき少し触れたがサムスン電子の世界シェアはとてつもなく大きい。もう一度出しておこうか。これは、スマホやタブレット、PC、サーバー、クラウド、AIインフラの価格に影響するので個人においても重要となる。

  • DRAM世界シェア:約40%
  • NAND世界シェア:約30%
  • 韓国輸出の20%以上が半導体

この規模の企業でストが起きるということは、 「世界のメモリ供給の4割が揺れる」 という意味に等しい。サムスン電子のストライキで生産支障というのは、半導体世界において、実はホルムズ海峡封鎖レベルでやばいてこと。だから、これは国際供給網からすれば致命的である。

それで、ストが供給リスクになる半導体生産についてだ。

ここが最も重要なポイントになる。
半導体工場は、一般の製造業とはまったく異なるからだ。

クリーンルームは「24時間稼働が基本」である、
半導体工場は一度止めると、再稼働に数週間〜数ヶ月かかるといわれてるのは以前に述べた通りだ。クリーンルームの環境が変われば、歩留まりが急落する。再調整に時間がかかるし、当然、コストも増える。

つまり、18日間のストでも“ライン停止リスク”が発生する。

次にサムスン電子の半導体生産工程は自動化率が低い。これはSKハイニックスと比べてだ。ただ、自動化率とか、こういう内部工程の話は非公開情報だ。これは韓国の半導体技術者のSNSで間での話だが、20〜30ポイント程、SKの方が高いそうだ。

逆に言えばサムスン電子は自動化少ないために人員を多く使った人海戦術工程が多いてこと。だから、ここの人員がストに参加すれば生産に直撃する。

実はSKハイニックスの自動化率がサムスン電子よりも高いのはこれもHBMを中心とした量産体制にある。HBMは工程が極めて複雑で、人手では不可能な精度が要求される。だから、HBM開発過程で自動化もドンドン進んでいった。

そもそも人材豊富なサムスン電子と違ってSKハイニックスは社員が足りないことが多かった。そりゃ、万年赤字企業に残る社員は少ないだろう。つまり、サムスン電子は人材多いために人海戦術工程が基本となり、逆にSKハイニックスは人材がいないために自動化が進んでスリム化してると。

じゃあ、サムスン電子も自動化すればいいと思うが、そもそもサムスン電子の旧工場は自動化が難しい。機械を何百台も変える必要がでてくる。

こういうのは普通に考えて新しい工場そのものを自動化専用に建設する方がよほど早い。そのために巨額な投資がいるわけだ。しかも、AIという新しい制御が可能となった最先端技術では生産効率にも大きく影響してくる。

半導体生産においても、サムスン電子の古い体質と。SKハイニックスの自動化を進めた新体質の顕著な差が出ているわけだ。しかも、この自動化率の差というのも、サムスン電子労組のストにおける供給リスクに直結する。

同じ規模のストをSKハイニックスの労組がやっても、自動化率でリスク差が明確に現れる。

後は、世界的なAIサーバー需要もある。それはフィラデルフィア半導体指数が1万とか超えてることでもわかるだろうSKハイニックスのHBMシェアは8割。サムスン電子はHBMを量産してシェアを増やしたいが、ストで壊滅的な打撃を食らう。

サムスン電子のストはわずか18日間でも世界の半導体供給網を震撼させるほど影響があるてこと。